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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)74号 判決

東京都江東区亀戸三丁目六一番一一号

原告

西村喜久枝

東京都江東区亀戸二丁目一七番八号

被告

江東東税務署長

右指定代理人

菊地健治

大石敏夫

石井寛忠

西尾房時

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告は、適式の呼出を受けたのに、本件各口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされた訴状及び各準備書面(二通)には、次の趣旨の記載がある。

1  請求の趣旨

昭和四一年分所得税の決定及び加算税の決定における同四七年一月二九日江東東税務署特四六三号譲渡所得二六七万〇五〇〇円を一一九万円と訂正せよ。

2  請求の原因

(一)  被告は、昭和四七年一月二九日付で、原告の昭和四一年分の所得税につき、所得金額を二六七万〇五〇〇円とする決定及びこれを前提として無申告加算税の賦課決定(以下これらを「本件各決定」という。)をした。

(二)  しかしながら、本件各決定は違法である。すなわち、原告は、昭和二八年一一月東京都江東区亀戸三丁目六一番一一号所在の建物を斎藤信男に対し、代金一五〇万円で売り渡したが、その後同四〇年三月二三日右代金額を三〇〇万円に改定したもので、右売買に係る譲渡所得の金額は一一九万円であるのに、被告は、右所得の金額を過大に認定して本件各決定をしたものである。

(三)  原告は、本件各決定について審査請求をしたところ、国税不服審判所長は昭和五一年二月二〇日付で裁決(以下「本件裁決」という。)をし、同裁決書謄本(以下「本件裁決書謄本」という。)は同月二三日原告方に配達され、斎藤信男がこれを受領したが、原告は当時不在であった。

そして、原告は、同月二六日に至り本件裁決書謄本を受領し、裁決があったことを知ったので、出訴期間内である昭和五一年五月二四日本件訴えを提起した。

よって、原告は、本件各決定の取消しを求める。

二  被告指定代理人は、本案前の申立てとして、「本件訴えを却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を、本案についての申立てとして、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、本案前の申立ての理由として次のとおり述べた。

1  本件裁決書謄本は、昭和五一年二月二三日原告方に配達され、原告と同居している内縁の夫であり、かつ原告により前記審査請求について代理人に選出されていた斎藤信男に交付され、同人がこれを受領した。

2  したがって、原告が本件裁決があったことを知ったのは右二月二三日であるところ、本件訴えは昭和五一年五月二四日に提起されたものであるから出訴期間を徒過した不適法な訴えであり、却下されるべきである。

証拠として、乙第一号証、第二号証の一、二、第三、四号証を提出し、証人斎藤信男の証言を援用した。

理由

一  先ず、本件訴えが出訴期間を徒過して提起されたものであるか否かについて判断する。

本件訴えは、本件各決定を取り消すとの判決を求めるものと解されるところ、本件裁決書謄本が昭和五一年二月二三日原告方に配達され、斎藤信男がこれを受領したことは当事者間に争いがなく、本件訴えが同年五月二四日に提起されたことは記録上明らかである。

公文書であるから真正に成立したと推定すべき乙第二号証の二、証人斎藤信男の証言により真正に成立したと認められる乙第三、四号証及び右証言によれば、原告は、本件各決定について国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、その際斎藤信男を審査請求人である原告の代理人に選任したこと、斎藤は、昭和五一年二月二三日原告を名宛人とし、原告方に配達された本件裁決書謄本在中の書留郵便物を受領し、同日これを開披し内容を了知したこと(右裁決書謄本が二月二三日原告方に配達され、斎藤がこれを受領したことは当事者間に争いがない。)が認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、右審査請求において原告を代理する権限を有する斎藤信男が右二月二三日に本件裁決書謄本を受領し、了知したものである以上、原告は右同日本件裁決があったことを知ったものというべきである。

原告は、本件裁決書謄本が原告方に配達された当時、原告は不在であり、右謄本を同月二六日に受領したから、原告が本件裁決があったことを知ったのは右二六日であると主張するが、前記認定のように斎藤信男は原告を代理する権限を有していたのであるから、右主張は主張自体理由がない。

したがって、前記二月二三日から本件訴えの出訴期間が進行するものというべきであり、本件訴えは、出訴期間を徒過して提起された不適法なものといわねばならない。

二  よって、本件訴えはこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 菅原晴郎 裁判官 山崎敏充)

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